試験が近づくと、こういう話が増えてきます。

「複線図なんて書かなくても受かる」
「複線図を書かずに済む裏ワザがある」

探すのは、自然なことだと思います。わたしも探しました。時間がない、覚えられない、手が動かない。そういうときに「書かなくていい」と言われたら、そちらを見たくなります。

実際、書かずに受かる人はいます。それは本当です。

ただ、その人の真似はできません。理由を、公式の資料と合わせて書きます。

まず、複線図は採点されません

これは本当です。試験センターが公開している「電気工事士技能試験(第一種・第二種)欠陥の判断基準」を、最初から最後まで読みました。

全12項目(未完成/配置・寸法・接続方法/誤接続・誤結線/電線の色別/
電線の損傷/リングスリーブ/差込形コネクタ/器具への結線/金属管/
合成樹脂製可とう電線管/取付枠/その他)

このなかに「複線図」という言葉は、一度も出てきません。

複線図に関する項目は、ひとつもありません。きれいに書いても、汚く書いても、書かなくても、そこは見られていません。

合否の決まり方も、はっきり書かれています。

合否は、作品の欠陥の有無の判定結果に基づき決定されます。欠陥のない作品が合格となりますので、課題の要求に適合した作品を時間内に作成できるように技能を習得してください。

出典:電気工事士技能試験の概要と注意すべきポイント(一般財団法人 電気技術者試験センター・2026年3月更新)

点数をつけて足し引きするのではありません。欠陥があるか、ないか。それだけです。

ここまでは「書かなくていい」を裏づけているように見えます。

ところが、公式は「複線図を正しく描く練習」と書いています

同じ資料の中に、欠陥を出さないための注意点がまとめられています。「3.誤接続、誤結線のもの」への対策として、こう書かれていました。

回路を的確に構成するため、複線図を正しく描く練習や作業では、回路が電気的に誤らないように、電線相互の接続や電線と器具への結線の練習を行ってください。

出典:電気工事士技能試験の概要と注意すべきポイント(一般財団法人 電気技術者試験センター・2026年3月更新)

採点はしない。でも、練習はしてください。公式がそう言っています。

矛盾しているようですが、していません。複線図は、採点されるものではなく、欠陥を出さないための道具だからです。

施工と複線図は、別のものです

採点役割
施工(手を動かす)される(欠陥の判断基準12項目)欠陥がなければ合格
複線図(紙に書く)されない(項目ゼロ)欠陥を出さないための道具
出典:電気工事士技能試験(第一種・第二種)欠陥の判断基準/電気工事士技能試験の概要と注意すべきポイント(一般財団法人 電気技術者試験センター)より、筆者が整理

別のものですが、片方だけでは成立しません。

誤結線は、判断基準の「3」に入っています。1つあれば、そこで終わります。その誤結線を防ぐ道具が複線図です。

書かない人は、頭の中に複線図があります

ここが、いちばん書きたかったところです。

書かずに受かる人は、複線図が要らない人ではありません。紙に書かなくても、頭の中で同じことができている人です。

見えているもの   「複線図を書いていない」という形
見えないもの     頭の中で組み立てている中身

真似できるのは、上だけです。下は真似できません。書かないという形だけを取り入れると、道具を捨てただけになります。

器用な方は、その場で判断できます。わたしはできませんでした。同じ土俵で速さを競っても勝てないので、土俵を変えました。本番で考えなくて済む状態を、先に紙の上で作っておく、という方法です。

いちばん危ないのは、直前にやり方を変えることです

「書かなくていい」「裏ワザがある」という話は、試験が近づくほど増えます。

そして、いちばん焦っているときに目に入ります。練習が思うように進んでいない時期です。

ここで方法を変えると、本番で「どっちだったか」を考えることになります。技能試験は40分しかありません。考える場面を増やすのは、いちばん高くつきます。

直前に変える   → 本番で判断が増える
決めたまま行く → 本番で判断が減る

新しい方法が悪いのではありません。試す時間が残っていないだけです。

遠回りに見えて、近道です

ここまでを、公式の資料からたどり直します。

合格            ← 欠陥のない作品が合格
 ↑
欠陥がない      ← 判断基準の12項目に引っかからない
 ↑
正確な作業      ← 12項目は、すべて作業の正確さについての基準
 ↑
正確な複線図    ← 誤接続・誤結線を防ぐために、公式が練習を挙げている

いちばん下から積み上がっています。複線図は採点されませんが、上の3つを支えているのは、いちばん下です。

書く手間は、たしかに増えます。ただし増えるのは紙の上の作業で、減るのは本番で迷う時間と、間違えて直す時間です。

紙の上で先に済ませておくか、本番でその場で考えるか。どちらかは、必ずやることになります。

わたしは、書きました

不器用な自覚があったので、本番で判断する場面を、できるだけ減らしたかったからです。

ただし、書く時間は削りました。1枚に20分かかっていたころは、たしかに「書かないほうが速いのでは」と思っていました。いまは5分です。

5分なら、残り35分あります。書かない選択をしなくても、時間は足ります。

どうやって5分にしたかは、複線図を5分で書く3つのルールに書いています。

まとめ

  • 複線図は採点されない。欠陥の判断基準に、複線図の項目はひとつもない
  • 合否は「欠陥があるか、ないか」だけ。点数の足し引きではない
  • それでも公式は、誤接続・誤結線の対策として「複線図を正しく描く練習」を挙げている
  • 施工と複線図は別のもの。ただし、片方だけでは成立しない
  • 書かない人は頭の中に複線図がある。真似できるのは「書かない」という形だけ
  • 直前にやり方を変えない。本番で考える場面が増える

書くか書かないかで迷っているなら、書く時間を短くするほうが確実です。道具を捨てずに済みます。

※ 引用した合否の基準・注意事項は、一般財団法人 電気技術者試験センターが公開している「電気工事士技能試験(第一種・第二種)欠陥の判断基準」および「電気工事士技能試験の概要と注意すべきポイント(2026年3月更新)」によるものです。内容は更新されることがあります。受験される回の最新版で、ご確認ください。